第6回 ラーメンの明日
激動の10年を経てさらに進化を続けるラーメンは今後どのような方向に進もうとしているのか。引き算のラーメンなのか、はたまた5番目のラーメンが登場するのか。ラーメン評論家の大崎裕史氏を招いてのラーメン会議最終回は、我等が愛するラーメンの「明日」をテーマに話し合う。いつもの様に、この基調トークを踏まえ、塾生諸君の意見や感想を、ブログで大いに発言してほしい。
[第6回 発言テーマ]
1. シンプルなラーメンがいいか、インパクトのある
ラーメンがいいか
2. キミがよいと思う、しょう油、味噌、塩、豚骨の次の
5番目のラーメン
3. チャーシューもメンマも入ってないラーメンについて
4. キミが評価する、未知の素材にチャレンジする店

小哲〜ラーメンは96年組が登場してから劇的に変わったってことなんですが、やはり同じ頃から、変わったなって思うことがあって、それは「パンチ」とか「インパクト」って言葉でラーメンが評価されるようになったことです。例えば、いろんな油を入れたり、出しも何種類も使ったりして、複雑で濃厚なのがパンチがあっていいとかね。でも、不思議なのは、こんなうふうに「パンチ」とか「インパクト」とか言うのはラーメンだけなんですよ。ほかの料理業界でパンチを出すとか、インパクトが足りない、とはまず言わない。焼肉であろうと、カレーであろうと。
大崎〜ああ、なるほど。
雁屋〜前々回の会議だったかな、最近はいろいろな出しが出てきて、ダブルやトリプルスープまであるって話だったでしょ。その話を伺っていて思ったんだけど、僕が住んでるシドニーで、大変にいい鶏が手に入るんですよ。全く有機飼育でおいしいんです。それでスープをとると黄金色のいいスープが出るんです。それに醤油を入れるだけでものすごくおいしいスープができるの。で、それに麺を入れて、これで何が悪いんだと。そこまであれこれ加えるより、単品の一番いい鶏のスープだけで十分すぎるぐらいうまいんだよ。
引き算のラーメン
大崎〜町田に去年の年末にオープンしたお店があるんですが、そこは2種類のラーメンを出していて、片方は比内地鶏100%、それしか使ってないんです。でも、目から鱗が落ちるぐらいものすごくおいしいラーメンなんですね。で、ここのところ言われてるのは、引き算のラーメンということなんです。
雁屋〜そう、僕もそれを言いたいね。
大崎〜お店によっては「当店は豚、鶏、なんとかかんとか、野菜これに20種類使ってますと。
雁屋〜やり過ぎじゃないかと思う。
大崎〜入れればうまいかというとそうでもない。雑味も増えるわけですから、そのバランスが難しいわけでして。
雁屋〜一番いい材料の鶏を使って、それだけでスープを一度とってもらいたい。その味をじっくり味わって、それからあれこれ足してみたらどうか。要するに、味の原点を見失ってるんじゃないかと思う。
大崎〜そうですね。複雑なとか、何々を重ねたというのがこのところトレンドだったので、その逆の発想で不要なものを引いていってシンプルにという。
雁屋〜僕は実際に自分でつくって体験して、ラーメンのスープはこれ、これでいいんだって深く思ったんですよ。
大崎〜おそらく来年あたりにはそういう流れが来るんじゃないかと思います。今年何軒かそういうお店が出てきて、ああ、シンプルでもうまいものはうまいんだというのは見えてきていますから。それにまた影響を受けたお店が来年あたり出てくるんじゃないかと思いますね。
インパクトよりも素材の持ち味
小哲〜僕、思うんですけど、若い頃って、とにかくインパクトなんですよ。例えば、今の音楽ってある時からみんな電気系の音になって、さらにいろんなエフェクターがかけられギンギンのやつが、インパクトがあって受けているわけ。わりやすいしね。で、それがどんどんエスカレートするんですけど、でも、10年ぐらい前に、アンプラグドが流行って、アコースティックのギターとかピアノも、改めていいじゃないってなったわけですよ。僕ね、ラーメンも今ちょうどそれと同じだと思うんです。
大崎〜私も非常に音楽好きなんですけど、音楽とラーメンて共通するものがたくさんあると思うんです。ラーメンの世界にもクラシックがあれば、ロックみたいなのもありますし。で、あっち行ったりこっちに来たりしながら、いまの流行りっていうのはあると思うんですけど、ただ、王道は王道でずっとあるんですね。ですから、来年、再来年あたりに、ほんとにシンプルな鶏100%のラーメンとか出て来るんじゃないかと思います。
小哲〜そりゃ、いいですね。そのシンプルな鶏だけで美味しいスープが、アコースティックの楽器の持ち味にあたると思うんですよね。じつは、僕も若い頃は脂ギトギトがよかったけど、いろいろ食べてきて年とってくると、シンプルなそのままの味みたいなのがよくなってきた。
雁屋〜その方が味の深さがわかるんだよ。いろんなものが入ると複雑な感じはするんだけど、複雑な感じって、実は舌の上だけの話で、真底おいしいものはジーンと深く味わって楽しいんですね。それを味わっちゃうと、あれもこれもというふうにごちゃ混ぜにした総花的な味っていうのは、結局、表面的な味に過ぎないっていう気がしてしまって、ほんとの意味で心にしみる味にはならない。
小哲〜ラーメンって、実際はものすごい量の塩が入っているでしょ。でも、みんな気にならないのは脂と化学調味料が角を丸くしているからなんです。だけど、さらに出しが濃厚になると、もっと塩分がないと物足りなく感じる。そうやってエスカレートしてできたのが濃厚でインパクトのある味なんだと思うんですけどね。その意味では、これから出てくるラーメンにも、もっとシンプルで、素材の持ち味を生かすというような流れが出てくればいいと思う。
5番目のラーメンはなにか
大崎〜いま、実際にラーメンといえば、味噌、塩、醤油に豚骨の4種類があります。味噌、塩、醤油はたれなんですけど、豚骨は正確にはたれじゃなくてだしなんですね。この分類自体そもそも間違いではあるんですけど、わかりやすいので、いま雑誌的には味噌、塩、醤油、豚骨って一緒にしてるんです。で、5番目は何が来るんだといわれていて、実際に5番目になるものが近々出てくると思うんですね。去年あたりは鶏パイタンが5番目であるといわれてました。店は結構増えたんですけど、定着するのかなあという感じではあるんですね。この前、立川にオープンした店なんか、ブイヤベースを使っていて、味噌でも醤油でも塩でも豚骨でも、なんでもない、わからない、トマトもたっぷり入っているというスープが出てきたりしてるんですね。
雁屋〜そういうのもあり得るんだなあ。
大崎〜それを5年前にやったのであれば、キワモノ系で片づけられてしまったと思うんですけれども、いまはある程度認められるようになってきたというところがラーメンの柔軟なところではあるんですけれども。
雁屋〜それがラーメンの面白いところですね、ほんとにね。
大崎〜次はどんなのが出てくるか。コーンスープラーメンとか、MISTでもパンプキンとラーメンスープを合わせたオードブルがありましたけど、あれがそのままどんぶり入って出てきたりするのかなと。
雁屋〜前に上海で、ほんと汚いコンクリートのつぶれかけたような家で、煮しめたような下着を着たおじさんが作るラーメン屋に連れていかれたんです。そこは羊の肉で、味はカレー味なの。これが美味しくってねえ。うわっ、おいしい。なんとかしてこの味を日本にさらって行きたいなあと思った。カレーラーメンてないですよね。
大崎〜いえ、カレーラーメンは結構増えていて、これもちょっとだけブームと言われたんです。「ダンチュウ」でカレーラーメン特集とかもやったりもして。ブームなのかなというぐらいまで行ったんですけど、またちょっと下火になりました。一つ大きな問題がありまして、カレーの香りがとってもすごいんですね。ですから、ラーメン店でカレーをメニューに加えることによって、カレーラーメンじゃないラーメンを食べに来た人もカレーラーメンを食べてるような感覚になってしまう。これが大きな問題なんですね。これがなかなか定着しない一つの理由なんだと思います。カレーは日本人とっても好きなので、冷やしカレーラーメンというのが出てきているんです。これは香りがあまり立たないのでお店でやっても大丈夫なあと。これが今年何軒か出てきているので、カレーが普及するとしたら冷やしカレーラーメンですかね。
小哲〜なるほど、冷しカレーラーメンね。前の晩の残りの冷たいカレーってうまいですからね。
チャーシューとメンマが入ってなくても、ラーメン
小哲〜ところで、話は変わるんですが、ラーメンて北から南までいろんなスタイルがあって、具も全然違うんだけど、たったひとつお約束事として、チャーシューだけは必ず入っていますよね。
大崎〜そうですね、チャーシューは焼き豚か煮豚かお違いはあるけど、ほとんど入ってますね。
小哲〜そうすると、さっきのカレーラーメンとか、トマトが入ったラーメンとかになっても、一般の人はラーメンとして愛着を持つんでしょうか。自分の中にラーメンというものの基本的イメージがあって、どんぶりがあって、スープと麺があってチャーシューが乗っている。でも、スープは、ま、豚骨でもいいや、みたいなね。そのへんどうなんですかね。
大崎〜チャーシューは必須ではなくなりつつありますね。
小哲〜あ、なくなりつつありますか。
大崎〜一昨年できたお店で、私がとってもびっくりしたお店があって、鮎ラーメンというんですね。だしに鮎を使って、具も鮎なんです。ラーメン店で結構手間暇かかるのが、メンマの戻しと、チャーシューを煮込む時間、チャーシューをつくるのにすごい時間と手間がかかってるわけです。その鮎ラーメンというのは、チャーシューもメンマもお店に存在しないのでその手間がないんです。鮎の煮干しは業者がつくっていますから、それを仕入れて、ラーメンをつくる作業だけなんですね。そうすると、普通のラーメン店と比べて手間暇が半分ぐらいになっているという点ですごい画期的だなあと思いましたね。
雁屋〜おいしいんですか?
大崎〜おいしかったです。
小哲〜いままで食べたラーメンの延長線でこれはいいなと。
大崎〜メンマもチャーシューも使ってないけども確実にラーメンで、とってもおいしいと思いました。
未知の素材にシャレンジする店
小哲〜なるほどね、それでもやっぱりラーメンではあるわけだ。ほかに最近美味しい店ってありますか。
大崎〜そうですね、今年オープンしたお店でいうと、鶯谷の「遊」。そこは煮干しが強烈に効いたラーメンで、非常に面白いですね。それと、さっきちょっと話題にした去年の年末にオープンした店で「ロックンロールワン」。ラーメン屋さんらしくない名前なんですけど、比内地鶏100%、鶏しか使ってないラーメンで、すばらしくうまい。鶏だけでこんなにおいしいラーメンができるんだって。
雁屋〜場所はどこなんですか?
大崎〜町田ですね。
雁屋〜ずいぶん遠くにあるなあ、最近の店は。
小哲〜だから、それも不思議だと思う。
大崎〜一つは、勝負をする際に家賃の問題とかがあるので、ドーナツ化現象というのはどうしても出てしまうんですね。一時期、都内は家賃的に無理なので、町田、相模原、大和、あと埼玉の方では川越、新座、あっちの方に店がずらっと。
小哲〜でもお客は来るんですよね、遠くても。そこがすごいなと思って。客も熱心だけど、店としても自信がなくちゃできない。
大崎〜むしろそっちの方がドライブがてらに彼女を連れて行けるというのがあって、それぐらいのドーナツ圏の方が流行るという時代もあったんですね。最近はまたちょっと逆戻りしてるんですけれども、東京の路地裏系っていうのが流行ってるんですけど、それも家賃の問題なんですね。人が通るところだと家賃が高すぎて、ラーメン店としては入りにくいので、路地を入ってもう1回曲がるぐらいのところにこっそりと建ってるんですけど、味さえよければマスコミが宣伝してくれるのでお客さんは来るんですね。「ロックンロールワン」とか、さっき言ったはまぐりのところは幡ケ谷にある「ほととぎす」っていうお店なんですが、これも、ああ、すごいなあというラーメンでしたね。はまぐりとか鯛なんかも増えてるんですけど、いままでそんなに使ってないような食材をどんどん使ってチャレンジしているお店が増えてきているので、そういう意味では食べる側としてはとっても楽しいですね、ああ、こんなのもあるんだ、こんなのも、と。鯛を使い、ぼたん海老を使いという……。
雁屋〜ラーメンだけでも尽きないですね。
大崎〜そうですね。ほんとに楽しくて、おいしくて、面白いというのがラーメンだと思って、ラーメンはエンターティンメントの世界ということで、私はほんとに楽しんでるわけです。
小哲〜じゃあ、最期にもう一度大崎さんに伺いたいんですけど、ラーメンて何なんですかね。
大崎〜ラーメンというのは、その答えがないところが面白いところだと思うんですね。
小哲〜なるほど、それではこの会議も、無理に答えを出そうとはせずに、今後もさらに続けてゆきたいと思います。大崎さん、長い時間どうもありがとうございました。
