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第10回 日本全県ラーメン巡り その4

大間から再び下北半島を南に向かった小哲塾頭と斎藤講師は、青森県の東端に位置し太平洋に面した町、階上へ到着。斎藤講師によれば、もっとも南部らしいラーメンがこの町にある「煉瓦亭」で食べられるのだという。いつもの様に、この基調トークを踏まえ、塾生諸君の意見や感想を、ブログで大いに発言してほしい。

第10回 発言テーマ
1.キミにとっての煮干し顔ラーメン、とりブタ顔ラーメン。
2.自分の町の味、よその町の味。
3.キミの故郷のそばとラーメンのスープとの類似性。

※ 発言テーマは上記に限らず広く考えて結構です。
   今回の基調トークとの関連で自由に発言して下さい。

●店データ
「つるや別館 煉瓦亭」 
住所 青森県三戸郡階上町大字道仏字天当平1-49
電話 0178-88-3311(代表)
営業時間 11:00〜21:00

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小哲〜いやァ、大間から階上までは思ったよりも時間がかかりましたね。青森県と一口にいうけれど、こうやって車で走ってみると、高速道路がなくて一般道を走ってきたせいか、意外と広く感じます。さて、ここ階上は八戸市の南隣の町で、三陸海岸のいちばん北に位置し、ちょっと行くともう岩手県なんてすね。それと、これは僕たちみたいなよその人間にはわからないんだけど、青森県は津軽地方と太平洋側の南部地方と大きく二つの文化圏に分かれているそうですが。

八甲田山の東と西

斎藤〜ええ、ちょうど八甲田山をはさんで、その東側の南部地方と、西側の津軽地方に分かれ、同じ青森県であっても、言葉も文化も異なります。

小哲〜実際どのくらい違いがあるんですか。

斎藤〜まず、言葉のほうは方言がまったく違うのと、しゃべり方も津軽人は機関銃みたい話しますが、南部の人は津軽から見ると、なぜもっとはっきりしゃべらないんだと思うくらい言葉数が少ないですね。それから人間の気質も違います。津軽のほうが、なんていうか人の心の中にずかずか入ってくる感じなのに対し、八戸のほうは慎ましい。食べ物に関していえば、南部は粉を使った料理が中心で、津軽は稲作ができたので米が中心です。

小哲〜じゃあ、ラーメンにも違いはありますか?

斎藤〜ラーメンはですね、南部では煮干しが使われているのが一番の特徴と言えます。

小哲〜津軽のように焼干しじゃなくて、煮干しなんですか。

斎藤〜ええ、ここはすぐ近くに煮干しの産地があるんです。だから、煮干しが使われてます。あとは、鶏ガラも使い、材料だけだと津軽と似ていますが、微妙に津軽とは違います。材料の違いではなく作り方の違いですかね。

小哲〜津軽のラーメンが、最近は焼干しが高くて使えないので煮干しを使うようになったという話だったから、よけい違いがなくなっちゃうのかな。

斎藤〜それとですね、いま、八戸市内のラーメン店が40数軒集まって「八戸ラーメン」としていろいろ盛り上げようとしています。でも、それには属してないけれど、最も八戸らしいラーメンが食べられるのがこの店です。

小哲〜メニューを開いてみると、ここはラーメン屋というよりは、宴会料理や仕出し料理もやっていて、立派な料理屋なんですね。

斎藤〜いまは、この店は「つるや別館 煉瓦亭」となっていまずが、もともとは40年くらい前に食堂として店を始め、ラーメンを出していたそうなんです。それから民宿も始め、さらに現在みたいな料理屋へと大きくなった。ですから、このラーメンこそが、この店のルーツと言ってもいいんでしょうね。ご主人の話だと、こちらのお母さんが食堂を始めた時に、今と同じしょうゆラーメンを作っていて、作り方モ、味もまったく当時と変わってないそうです。だから、わざわざ八戸から通ってくる客が大勢います。

小哲〜そうか、日本橋の泰明軒は洋食屋なのにラーメンが名物になっているけど、こちらは、ラーメン屋さんが宴会料理まで作るようになって、でも、看板料理のラーメンはちゃんと作り続けているってわけだ。えらいもんだな。

八戸ラーメンの伝統

斎藤〜さて、その醤油ラーメンが出てきましたよ。

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小哲〜なるほど、これがその40年前と同じ八戸のラーメンというわけだ。具はチャーシューと刻みねぎ、それにメンマとのりだけで、いたってシンプル。で、スープはあまりしょう油が濃くなくて、色も薄めだ。脂はほとんど浮いてなくて、焼豚の脂がかすかに光っているくらいかな。で、まずは、スープを一口飲んでみると・・・・・・・・・うん、すごくさっぱりしていてきれいな味です。ただし、煮干しのだしがぐーんと濃い。そして、麺は細めの縮れ麺。カンスイの臭みもないし、これ僕の好きなタイプです。

斎藤〜八戸地域のラーメンはしょう油味で、鶏がらと煮干し、昆布が基本なんですが、そのバランスが、多分この店が一番きれいにまとまっていると思います。

小哲〜そうですね。さっぱりしていると感じるのは、要するにそれぞれの味がケンカせずにきれいに一つにまとまっているからですね。だからインパクトとかパンチとは無縁のラーメンで、とても素直でおだやかな味になっている。

南部では蕎麦だしにもにんじんが入る

斎藤〜スープは煮干し出しに、鶏ガラ、鶏皮、それに昆布と野菜でとっているんですけど、野菜はねぎやしょうがなどの香味野菜は使わずに、にんじんだけだそうです。

小哲〜へえ、野菜はにんじんだけなんだ。それで、スープの味がおだやかなのかなあ。

斎藤〜にんじんはですね、この地方では蕎麦のだしにも使うんですよ。

小哲〜えッ、蕎麦の出しにもにんじんを使うの!東京じゃ考えられないなあ。

斎藤〜にんじんは、昔は味噌汁のだしにも煮干しと一緒に使ったといいますから。ですから、こちらのお母さんが食堂を始めた時は、ラーメンを作るのにも、昔のやりかたでやってたんですね。

小哲〜そうか、ということは、味噌汁とも共通するところがあるわけか。

斎藤〜いやいや、それだけじゃないですよ。この地方の郷土料理でいちご煮というのがあります。うにとアワビの入った汁なんですが、そのだしも煮干しでとっています。他にも、南部地方の汁ものにひっつみとか、せんべい汁というものがありますが、どれも煮干しと、鶏、それに昆布が基本です。

小哲〜なるぼとね、こっちは鰹節文化ではなく、もともとが煮干し文化というわけだ。

斎藤〜八戸に白銀という地域があって、いわしがたくさん上がります。で、その浜で天日干しのとても質のよい煮干しを作っているので、この地方では汁ものは、鰹節ではなく煮干しを使います。

小哲〜つまり、ごく自然に煮干し、鶏、昆布の基本だしがラーメンにも移入されたってわけだ。

斎藤〜どうですか、このスープ煮干しは強いですが、ぜんぜん臭みはないでしょ。

煮干し顔が好きか、とりブタ顔が好きか。

小哲〜うん、でも、強すぎるせいか、僕にはかすかに臭みが感じられる。ただ、鰹節とは違うこの荒々しさが煮干しの持ち味ではあるから、まあ、好みの違いなんでしょうね。それも、個人的というよりも土地の好みなんだと思う。でも、このスープは飲んでいくうちに体になじんでくる感じで、後を引くなあ。

斎藤〜前に私がラーメンの本を書いた時に、取材で一日中ラーメンを食べ、もう食えないとこまできていたのに、このラーメンだけは、最後になってもなんなく平らげてしまったんです。

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小哲〜うん、素直な味というか、きれいな味をしていますからね。いま、ふと思ったんだけど、このラーメンは煮干しの味が前面に出ていて、その魚くささを抑え味に丸みをつけるために鶏のスープが使われている。一方、昔の東京系のラーメンはちょうどこの逆で、鶏がらや豚の脂くささを抑え、味に深みを出すために魚だしが隠し味として使われている。素材はそれほど違わないのに、動物系が前面に出るか、魚系が前面に出るかで、まったく正反対の味になってしまうわけで、煮干し顔か、とりブタ顔か、土地の好みがじつに分かりやすい形で表れている。で、そんなふうに土地の好みに柔軟に変化し、また、変えられても問題ないってところが、ラーメンの強みであり面白いところですね。大げさかもしれないけど、ラーメンというのは、土地の文化と人間を映す鏡でもあるわけだ。

ラーメンは最も過激な郷土料理

斎藤〜まったくそうですね。同じ青森県の中でさえ、南部の人が津軽ラーメンを食べると、あんなしょっぱいものは口に合わないといい、津軽の人にとって南部のラーメンは甘くて物足りないというくらいですから、ラーメンほど土地の好みがはっきりと出てしまう食べ物は他にないですね。で、これを日本全国でみれば、いったいどれだけの種類のラーメンが、その土地の好みに合わせてできあがったかですよね。

小哲〜うーむ、そう考えると、最近の創作ラーメンもいいけど、長い年月をかけてそれぞれの土地で淘汰されながら続いてきた地ラーメンには、伝統的な郷土料理と同じような、説得力がありますね。

斎藤〜私は民俗芸能から、郷土料理にも興味を持つようになったんですけど、そんなわけで気がついたらラーメンという最も過激な郷土料理にはまってました。

小哲〜さてと、斎藤さん、この次はどこへ行きますか。

斎藤〜次はイノシシと行きましょうか。

小哲〜なに、煮干しの次はいきなりイノシシですか。それも、ずいぶん過激なんじゃないですか。よーし、じゃあイノシシ、行きましょう。


つづく...

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2006年12月27日 13:41に投稿されたエントリーのページです。

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イラスト/花咲アキラ(「美味しんぼ」より)
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