第13回 日本全県ラーメン巡り その7
ラーメン屋一軒あたりの人口比が日本一という山形県。その中でも酒田のラーメンには北前船の歴史と、中国人コック直伝の技術が受け継がれている。一杯の酒田ラーメンから、斎藤講師の話は食材自給率にまで及ぶのだった。いつもの様に、この基調トークを踏まえ、塾生諸君の意見や感想を、ブログや美味しんぼフォーラムで大いに発言してほしい。
第13回 発言テーマ
1.キミが美味しいと思う麺のタイプは?
2.ラーメンの食材自給率についてどう考える。
※ 発言テーマは上記に限らず広く考えて結構です。
今回の基調トークとの関連で自由に発言して下さい。
●店データ
「満月」
住所:山形県酒田市東中の口2-1
TEL:0234-22-0166
営業時間:11:00〜20:00
定休日:毎月2・12・22日、不定休

酒田はラーメンの町
小哲〜酒田にやってきて驚いたんですけど、この町もラーメン屋が多いんですね。
斎藤〜意外だと思われるかもしれないけれど、ラーメン屋一軒あたりの人口比では、なんと山形県が全国一なんですよ。「酒田のラーメンを考える会」なんてのもあって、14店が参加しています。それ以外の店も含めると、酒田だけで42軒のラーメン店があるんです。
小哲〜その酒田で、最初にやってきたのが、ここ「満月」という店で、ここはラーメン以外にもワンタン麺があって、どうやらこっちのほうも人気があるみたいですね。
斎藤〜ここは、じつはワンタン麺が有名で、ご主人自身もワンタン麺に自信を持っていらっしゃいます。
小哲〜かなり昔からワンタン麺が人気だったようですが、酒田では他の店でもワンタン麺を置いているんですか?
斎藤〜ワンタン麺はいろんなお店にありますけど、でも、酒田の人に「ワンタン麺、どこに食べに行く?」と聞けば「満月」なんですね。
小哲〜なるほどね。それにもかかわらず、僕が注文したのは、やっぱりラーメンなんですね。
斎藤〜おかわりでわんたん麺を頼めば、いいじゃないですか。
小哲〜そうなんですけど、僕は斎藤さんみたいに5杯も10杯も食べられないんですよ。おっと、出てきましたよ、ラーメンが。ふーむ、このラーメンはずいぶん魚の匂いがしますね。

酒田といえば煮干しの風味
斎藤〜それじゃあ、先に具材の紹介をしておきましょうか。えーと、ここはチャーシューは煮豚です。それが2枚のっています。それとメンマ。そしてネギ。ネギは長ネギを青い部分を含めて輪切りにしたものがのっています。具はそれだけ。麺は中細麺で、あまり縮れてはいません。
小哲〜じゃあさっそくスープからいきます。なるほど、煮干しが強いなあ。それと醤油の味もだしに合わせてなのか、かなり濃い目ですね。でも、こういうの、煮干しが強いか斎藤さん好みなんじゃないですか?
斎藤〜いやいや、煮干しだしは好きですけど、特にということではないです。でも、ここは煮干しが強いほうだと思うます。この次に行こうと思っている店があるんですけど、そこはもっと動物系が強いですね。同じ酒田でも、店によって煮干し系と動物系のバランスが微妙に違っているんです。
小哲〜いずれにせよ、酒田の人たちはごくあたりまえにラーメンというとこの煮干し系のラーメンだと思っているわけだ。ラーメンといっても、その土地によっていろいろなんですね。これ、横浜の家系とか東京の二郎ファンが食べたらなんて言うんだろう。
斎藤〜そうですね、感想を聞いてみたいですね。
小哲〜まったく対照的にシンプルですよね。で、もう一口スープをすすってみると、ああ、やっぱりかなり煮干しだしが濃いです。で、麺はというと、これも結構しっかりしています。かなりもちもちした感じですね。チャーシューは肩ロースなんだけど周りに脂がついている。だけど、煮込み方がかなり硬いな。このへんはみんなこうなんですかね。
斎藤〜いや、お店によりますが。ただ、バラ肉を巻いてとろとろにしたようなタイプのチャーシューはありませんね。
小哲〜最近、東京ではそういうのが多いけど、それって20年くらい前かから始まったんじゃなかったかな、僕の記憶だと。その前は、これと同じように肩ロースだった。
斎藤〜東北では昔からの店はそれはやってないですね。
小哲〜だから、これは伝統的なチャーシューなんだろうけど、煮方が浅いというか、まだ硬いですね。そういえば、これまで食べてきた店のチャーシューって、どこも、さっぱりというか、脂が少なく硬めのが多いですね。だから、チューシューを食べてるうちに、おつゆを追加して飲まないと口の中でモソモソしてきちゃう感じだな。
北前船と中国人コック
小哲〜ところで、酒田でラーメンを食べるのは、僕は初めてなんだけど、歴史は古いんですか。
斎藤〜酒田は北前船の港だったという関係で、明治以降、港町だったので移住してきた中国人がいました。その中国人の中で昭和の初期に中華料理店を開いた人がいるんですね。
小哲〜じゃあ、かなり昔からあったわけだ。北前船との関係は、もともと港をして栄えていた。そして、北前船の時代が終わったあとも港町として栄えていたとしても、中国人が来たというのは海からじゃなくて、やっぱり東京から来たんでしょうね。
斎藤〜関東大震災のあとに東京や横浜から移住してきた人が多いというふうに聞いています、その中の一人が昭和の初期に中華料理店を開いたらしいんですよ。で、そこに勤めていた女性の方が、その後、中国人が引き揚げていなくなったあとも、中華料理店を引き継いでやった。その中国人がもともとカンミョンという、これは太い竹の棒で打つ麺なんですけど、そのやり方で中華料理の麺料理を出していたらしいんです。その女性がそれを習い覚えていたので、カンミョンというやり方で麺をつくる酒田風のラーメンが生まれたらしいんですね。その後、暖簾分けしたり、それをまねしたり、ということでどんどんカンミョンというやり方の麺づくりが広がっていきました。
小哲〜カンミョンで麺を打つのは、横浜中華街の「徳記」がそうだったけど、それが酒田という町のラーメン屋で普通に行われていたとは、驚きですよね。東京じゃほとんど見かけませんから。
自家製麺があたりまえの酒田ラーメン
斎藤〜いまはカンミョン自体はやっていないお店も多いんですけれども、もともと、自分のところで麺を作るもんだということを酒田のラーメン屋さんは普通に思っているから、ほとんどの店が自家製麺です。製麺会社があって、そこから麺を持ってくるというのではなくて、機械は使っていたりしても、ほとんどのお店が自家製ですね。
小哲〜ほとんどって、どのくらいなんですかね。
斎藤〜8割以上ですね。
小哲〜エッ、8割以上!?そりゃスゴイなあ。この10年くらい、東京では意欲的な創作系ラーメン屋さんが、試行錯誤の末に、結局、自家製麺にたどりついてるんですよね。東京だって、その昔は自分の店で麺を打っていたのが、ある時代になって製麺屋さんができてからは、麺を外注するのが一般的にはなった。それにもかかわらず、この地域では、自家製麺というやり方をずっと守ってきたわけだ。そうすると、最近の店みたいに「うちは自家製麺です」って威張ってるのも妙な感じですよね。
斎藤〜そうですね、この地域では自家製麺であるのが当たり前ですから。どの店も、うちは国産小麦粉しか使わないんだよとか、国産小麦粉の中でもこれこれを使ってる、というところが他店との差別化で、自家製麺は当たり前なんです。
小哲〜東京にいると、意外とそういうのは知られてないんですよ。
斎藤〜それと、醤油。これも北前船の港町っていうのは、味噌屋さん、醤油屋さん、豆腐屋さん、大豆関係の加工業者が多いんですよ。なぜかというと、もともと背後に大豆の産地を持っているということもあったり、よその大豆産地から積み荷として大豆を積んで来たりしたわけです。そうすると、北前船の船頭が積み荷の1割は寄港した港町で売って、船の中で働いている水夫たちの生活費にあてていたんですね。で、積んできた大豆を売ったりした。だから、北前船の港町は、金沢も、富山もそうですけど、酒田でも、大豆屋さんとか、醤油屋さん、味噌屋さん、豆腐屋さんといった大豆関係の加工業者が非常に多いんです。酒田のラーメンは、酒田に醤油屋さんがたくさんあって、ラーメン屋さんも醤油だけは地元の醤油を使う。これもほとんど当たり前のことなんです。
ラーメンの食材自給率も日本一
小哲〜そういえば、この店の満月という看板の下に、マルジュウ醤油って書いてありましたね。あれが地元の醤油屋さんですか?
斎藤〜ええ、地元の醤油屋さんです。それから、豚も地元にいい豚があるので、それぞれ好みがあるでしょうから、例えば、庄内豚とか、別のお店で三元豚を使うとか。
小哲〜三元豚っていうのはどこのですか。
斎藤〜山形県の平田牧場で生産しています。
小哲〜県内産ですか。
斎藤〜ええ、山形にはとてもいい牧場がたくさんありますので、皆さんそれぞれ選んで地元の豚でチャーシューをつくっています。
小哲〜その他に地元産というのは?
斎藤〜ラーメンの中で食材自給率はどうなっているのかということを計算するとすごく高くいんです。例えば、ほかでは、醤油は大豆がほとんど輸入大豆でしょう。それから、麺もほとんどが外麦でしょう。そして、チャーシューの肉だって、もうみんな輸入物だったりすることが多いので、ラーメン一杯の自給率というのは、平均すると7%ぐらいなんだそうです。ところが、酒田のラーメンは、麺に使う小麦粉は国産のところが多い。醤油は地元の大豆を使っているし、豚も山形県産のものを使っていることが多い。ということを考えると、ラーメン一杯の中の自給率というのは、全国平均の7%に比べると、山形は非常に高いですよ。

小哲〜いまの話だと相当高そうだ? 輸入ものは小麦粉くらいのもんでしょ?
斎藤〜いや、店によっては輸入小麦粉はほとんど使わないところもあるわけですから。
小哲〜すると、100%自給ですか。
斎藤〜かなり高い、100%に近いお店があります。そういうことを考えると、酒田のラーメンというのは、ほんとに酒田の地域の食べものなんです。
小哲〜そうですね。
斎藤〜いわゆるご当地ラーメンの中には、なんとかラーメンという名前はついているけれども、その中に入っているものはほとんど地元産のものはなかったりということが多いでしょ。それに比べると、酒田のラーメンというのは、アゴの焼き干しを使うとか、そういう象徴的なものもあるし、ほかの食材についても地元のものを使うことが多いというわけで、これこそまさに地のラーメンといっていいと思います。
小哲〜いま食材自給率という話が出たけれど、国内での自給率じゃなくて、県内での自給率ということですね。それはたいしたもんだなあ。そういう意味では、いわゆる「ご当地ラーメン」ではなくなくて、本当に「郷土ラーメン」だって言えますね。ラーメン屋密度日本一の県は、素材の自給率も日本一だったってわけだ。こりゃ、エライことだな・・・・・・・
