第15回 日本全県ラーメン巡り その9
酒田での3軒目は、斎藤講師が以前に何回も来たことのあるお気に入りの店「味龍」。一般的に魚出汁が強い酒田のラーメンの中で、あえて魚出汁をおさえ動物系出汁とのバランスに気を配っているという。さて、その味のほどは・・・・・。例によって、この基調トークを踏まえ、塾生諸君の意見や感想を、ブログや美味しんぼ塾フォーラムで大いに発言してほしい。
第15回 発言テーマ
1.キミの好きなご当地ラーメンはどこ?
2.キミから見て、郷土ラーメンと呼ぶにふさわしいとラーメンはどこ?
※ 発言テーマは上記に限らず広く考えて結構です。
今回の基調トークとの関連で自由に発言して下さい。
●店データ
住所: 山形県酒田市錦町1-2-24
TEL: 0234-31-3717
営業時間 : 11:00〜15:00
定休日: 水曜日

自家製麺が当たり前の土地柄
小哲〜斎藤さん、やっぱりこちらの店も麺は自家製なんですね。酒田では8割以上が自家製麺だってことは聞きましたけど、それにしても、酒田のラーメン屋さんはみんなやる気まんまんだ。レベルも高いしなあ。
斎藤〜自家製麺というのが、当たり前なんですよね。かつては、うどんだって、そばだってみんなそうだったんですから、ラーメンだって同じ感覚なんでしょうね。
小哲〜ここの麺は中細よりもちょっと太めだけど、よーくかんでいると、小麦の甘味が広がってきてうまいですね。とにかく、ラーメンもうどんも小麦の麺は、そばみたいにクセもないし香りが強くないから、あわてずによーくかんだほうがいいですね。
斎藤〜ここの麺は腰もあるし、なめらかですよね。
小哲〜そういえば、よく麺がなめらかで喉ごしがいいとかいうでしょ。とくに蕎麦なんかだと、江戸っ子は、ツツーッとすすり込んだら、ほとんどかまずに飲み込んじゃう。それが粋な食べ方だってっいうんだけどね。でも、あれは僕に言わせれば間違いですよ。蕎麦こそよくかまなければ、せっかくの蕎麦の持ち味がわからないからもったいない。ラーメンもいっしょ。
斎藤〜ちなみに、ここの麺は、南部小麦を使っていたと思いますよ。それから、つなぎとして輸入の小麦も入れているそうです。カンスイは、こちらも内モンゴルのものですね。
小哲〜そうか、小麦粉も国内産を使っているんですね。
斎藤〜南部小麦は、国産小麦の中でも甘味があるんですよ。ただ、これだけだと、ブツブツ切れちゃうので、つなぎとして輸入小麦を入れているんですね。
小哲〜やっぱり、グルテンが足りないってわけだ。

地元のいい食材が味の基本
斎藤〜で、スープのほうですけど、ここは酒田のラーメンにしては魚介系出汁をおさえ動物系の出汁をうまく使っています。どうですか、魚系の出汁とのバランスはいいと思いませんか?
小哲〜そうですね。ただ、これまでに食べた店と比べると、魚系も動物系もバランスはとれているんだけど、少し濃いめかな。醤油も濃いめだし。でも、見かけよりも、さっぱりした素直な味に仕上がっています。
斎藤〜ちなみに、このスープは、出汁にあごの焼干し、あじ干し、かつお節、それにさんま節も使っているそうです。その他に、貝柱、昆布、とりがら、豚のゲンコツ、あとは香味野菜ですね、ネギやにんじん等々。
小哲〜そうか、やっぱり出汁にそれだけ入っているから厚みがあるっていうか密度が高いんだな。でも、もっちりした麺とスープがよく合ってますね。
斎藤〜それと、化学調味料とか、そういう刺激的なものは一切入ってないから、最初は物足りなさを感じるかもしないけど、食べてゆくうちに自然なうま味がだんだん口の中に広がってくる。
小哲〜だから、さっぱりと感じるんでしょうね。
斎藤〜前回、ラーメンの食材自給率の話をしましたが、チャーシューの豚は、これも「三元豚」という 地元産のものなんです。酒田のラーメンは煮干しを使うやり方が基本にあるんですけども、こらちの特徴は、それをベースにしながら、たとえばこの平田牧場の三元豚とか、いろんな地域の食材を使って独自のスープなり麺なりをつくっているところです。平田牧場っていうのは首都圏では店舗を持ってない生協とかに売ったりしていて、育て方がしっかりしているということで注目されてるんですけど、こちらでは有名になる前から平田牧場の豚をチャーシューに使うとか、出汁をとるのにゲンコツを使うとかいうことをやってきたんですね。とにとかく地元のいい食材を使おうという姿勢のお店なので、今回とくにお連れしました。
小哲〜なるほど、それにしても、こうしてちゃんと地元で食材が揃っちゃうってうところが素晴らしいですね。じっさい、この豚、肉にあまみがあってうまいですよ。
斎藤〜そうでしょ、臭みもないし。
※ここで店主の岡部さんも参加

素材の味が生きているようなラーメンが作りたい
小哲〜どうも、ごちそう様でした。こちらは食材にもずいぶん気を使っているということを斎藤さんから聞いたところです。ところで、お店を始めたのはいつ頃ですか。
岡部〜昭和63年です。
小哲〜昭和63年というともう18年前になりますけど、その前は何をやっていたんですか?
岡部〜サラリーマンをやってました。
小哲〜えっ、そうなんですか。じゃあ、店を始めたときはどんなラーメンを目指したんですか。
岡部〜最初は、麺がうまい、スープがうまい、だけじゃだめなんじゃないかと思ったんです。酒田のラーメンていうのはすごい煮干しが効いてるんですよ。食べると、麺の味もわからなくなっちゃうぐらい魚の味が効いてるんですよ。
小哲〜えっ、そんなに効いてますか。
岡部〜ええ、いわゆる酒田のはそうです。それで、これじゃだめだなと思って、何を食べても素材の味が生きてるようなラーメンをつくりたいなと思って、最初からこういうスタイルで出しているんです。
小哲〜岡部さん、出身は酒田ですよね。酒田の人間にとっても煮干しの味が強すぎる、と。
岡部〜私もラーメン好きですごい食べるんですけど、私としては。食べたときにあんまり煮干しの味が強くて、麺を食べても煮干しの味がワァーッと口に広がってわからなくなるんですね、ほかの味が。何を食べても素材の味、ねぎはねぎ、メンマはメンマでおいしいなって感じるようなラーメンがいいかなと思って。普通はカタクチイワシの煮干しを使ってるんですよね。で、店を始める前にいろいろやってみたんですけど、アジ干しが一番クセがないというか、魚の味が出て来ないんですよ。それでアジ干し一本に絞ってずっとやってたんですけども、ここは飛島のいい焼き干しがあるので、それも使うようになりました。
斎藤〜酒田の沖に飛島っていう島があって、そこのトビウオ、アゴの焼き干しが名産なんです。
岡部〜で、そのアゴの焼き干しも使ってやってるうちに、あるときサンマ干しがいいってことを耳にして、じゃあ、使ってみようかということで、それも入れたりして、最終的には、さらに青森のホタテの貝柱も入れるようになりました。

小哲〜そうすると、いわゆる酒田のラーメンの煮干のにおいをどう抑えてゆくかが出発点で、魚の臭みを消して、まろやかな旨味をいかに出すために岡部さん流に修正を加え、いまの形にたどり着いたというわけですね。
「ご当地ラーメン」とは違う「郷土ラーメン」
斎藤〜そんなことで、酒田には、こちらのように地元の食材を活かして割と新しいラーメンをつくろうとする店もあれ、もともとの酒田のラーメンていうのはこうなんだよということで、それを守ろうとするラーメン屋もあります。そして、地元の人たちも何種類もある酒田のラーメン屋の味の中から、このお店、このお店と選んで行く。で、昔ながらのラーメン屋が1店だけポツンと残っているというんじゃなくて、何十店もあるんですね。
小哲〜こないだの話だと、そうやって酒田には40何軒ものラーメンがあって、しかも、この地域なりのしっかりしたラーメンをつくっているというわけだ。そういう意味では、「酒田ラーメン」というご当地ラーメンというか、郷土ラーメンが確立されているんですね。
斎藤〜酒田ではご当地ラーメンなんていう言い方はしてないんですけども、自分たちのラーメンというのは、ほかの地域と比べて独自であるというふうにみんな思っていて、しかも、酒田に来たら、酒田のラーメンを食べてくださいって、「酒田のラーメンを考える会」というのもあって、パンフレットも作っているわけです。これをいわゆるご当地ラーメンと呼ぶのは、僕は正しくない気がするわけですよ。
小哲〜そうですね。郷土料理と同じように、郷土ラーメンと呼ぶのがふさわしいと思いますね。一般的にご当地ラーメンと呼ばれているものの中には、地域起こしやマスコミの力でポピュラーになったものもあるけれど、その意味では酒田ラーメンは全国的にはまだあまり知られていない。だけど、酒田ラーメンの背景にある歴史とか、実際に地元の素材を使っているということで、これはもう立派な郷土料理であり、「郷土ラーメン」と言えますね。
斎藤〜さっきの食材自給率の話をすると、たとえば、ご当地ラーメンとしていまや全国的に有名な喜多方ラーメンであっても、食材自給率はかなり低いわけです。ですから、酒田のラーメンはいわゆるご当地ラーメンとは区別する意味で、まさに地ラーメンとか、郷土ラーメンという呼ぶのがふさわしいと思います。
小哲〜こうやって、ラーメン巡りをしていると、ほんとうに郷土料理と同じように、その土地の歴史や文化とむすびついた郷土ラーメンというものが出来上がっているってことが、実感としてよく分かりました。
斎藤〜あらあら、小哲さん、まだ話をまとめないで下さいよ。次の店があるんですから・・・・・
小哲〜はいはい。それじゃあ、どーも、ごちそうさまでした。
