第16回 日本全県ラーメン巡り その10
米沢といえば神戸、松坂に並ぶ銘柄牛の産地。一方、知名度では牛にかなわないが、店の数では日本一の密度を誇るというのが米沢ラーメンだ。塾頭と斎藤講師は、数あるラーメン屋の中でも牛骨を出汁に使った店「喜久家」を訪ねてみた。
●店データ
住所: 米沢市大町 3-4-7
TEL: 0238-23-0757
営業時間 : 11:00〜22:00
定休日: 無休

ラーメン店密度が日本一高い町
小哲〜日本全県ラーメンめぐりも、今回は米沢までやってきたんですけど、米沢といえば、僕なんかまっさきに浮かぶのが米沢牛です。でも、米沢ラーメンのほうは、あまり馴染みがない。
斎藤〜ところがですね、米沢は知られざるラーメンの町なんです。なにしろ、人口9万3000人の米沢市になんと219軒ものラーメン屋があるんですから。ちなみに、札幌が人口30万人弱のところに185軒。博多は人口123万人のところに231軒です。
小哲〜ということはですよ、ラーメン屋1軒あたりの人口密度に換算すると、米沢は市民424人に対してラーメン屋が1軒あるのに対して、札幌が1261人に一軒、博多は5324人に一軒ということで、米沢がダントツじゃないですか。なんとも驚異的な数字だけど、そのわりに全国的に知名度が低いのなぜなんだろう。
斎藤〜あまり知られてないのは、おそらく米沢が札幌や博多みたいに全国から人が集まる大都市じゃないってこともあれば、ラーメンにインパクトというものを求める最近の流行りとも無縁で、昔から変わらない普通のラーメンだからじゃないでしょうか。
小哲〜それにしても、ラーメン屋の密度でいえば、博多の10倍はあるってのは驚きですよね。それだけ日常的にラーメンが食べられているってことなんでしょうね。
斎藤〜青森もそうですけれど、毎日食べて飽きないラーメンなんだと思いますね。で、店の数も多いけれど、米沢ラーメンは、歴史も古いんです。関東大震災の後には、すでに中国人が屋台のラーメン屋を出していたといいますから。
小哲〜それって、青森でも、酒田でも同じでしたね。最初は中国人が始め、やがて日本人が真似て作るようになった。
斎藤〜そうですね。たしか、喜多方ラーメンも中国人の出した店から始まったといわれてます。
牛骨だしの新米沢ラーメン
小哲〜ところで、米沢ラーメンの特徴はどんなところですかね。
斎藤〜ひとことで言って、麺は細めの縮れ麺。スープは、鶏ガラ、豚、煮干しがベース。ただし、これまでの青森県、秋田県、酒田までのラーメンほど魚系の出汁が表には出ず、鶏や豚の出汁に深みを与える程度。で、「喜久家」の場合は、さらに地元の米沢牛の牛骨を出汁に使っているんですが、一般的に牛は使われていません。
小哲〜じゃあ、ここは通常の米沢ラーメンのスタイルに、さらに地元の米沢牛の風味を加えられた、より米沢的な進化形ともいえるんですね。
斎藤〜そうなりますね。私が、今回この店を選んだ理由の一つとして地の素材である牛をどう使っているかってこともあったんです。

小哲〜なるほど、いまラーメンがテーブルに運ばれてきたところなんでけど、すでに牛独特の香りがしますね。で、まずはスープからいくと・・・・・。うーん、実際に飲んでみると、最初は牛の香りがあるんだけども、口に含んでいると、ベースとなっている鶏の味が広がってきますね。あと、やっぱり煮干しが入っているからか、独特の、なんていうかな、ひなびたようなうまみが、動物系のだしに厚みを与えていますね。そして、スープに甘味があるんだけど、これは何の甘味なんだろう。
斎藤〜あ、この甘味は醤油の甘味じゃないでしょうかね。おそらくこの地域の醤油が甘いんだと思いますよ。
小哲〜そういうことですか。醤油は地域によって甘かったりしますもんね。でも、醤油ラーメンとして、醤油の味はそんなに濃くはないし、あと、味の角も立ってないですね。それと、チャーシューは、バラを巻いたやつと肩ロースの二種類の煮豚が乗っています。煮かたはとろけるようでもなく、硬くもなく、ちょうど中間かな。だけど、食べているうちにこの豚の脂がにじみ出てくるから、ある意味で豚のうまみと牛のうまみが渾然一体となってくる。
牛骨だしの独特の甘味
斎藤〜最初テーブルに運ばれてきたときは、牛の香りがずいぶんするんだけど、だんだん食べているうちに全体がなじんできますね。
小哲〜そうそう、ラーメンって、最初にスープを飲む時、レンゲで表面の脂の浮いたところをすくうか、脂をよけて素の部分をすくうか、または刻みねぎと一緒にすくうかで、スープの味が全然違うんですよね。でも、普通に食べればどれも混ざり合って、ああ、美味しかったってことになる。
斎藤〜これ、どんぶりの底のほうになると、牛独特の甘味というのかな、それが残っていて、すごくいいですよ。私・・・、決して煮干しだけが好きなんじゃないので・・・。
小哲〜この細めの縮れ麺は、僕の好きなタイプなんですけど、できれば、もう少し硬めのほうが良かったな。あと、メンマはというと、ああ、よく煮てあるからか、独特の臭みが抜けてますね。
斎藤〜スープは、牛骨は使ってるんだけど、牛骨を使いましたって感じで、主張しているわけではないんで、いいですね。
小哲〜で、どうなんでしょうね。せっかくこういうスープなんだから、チャーシューのかわりに牛肉を使うってのは。だだし、そうすると、ラーメンのお約束ごとから外れちゃうのかな、煮豚でなく、煮牛だったら。ただ、本家の中国では、そういうのいくらでもありますからね。
斎藤〜あ、そろそろ店長の手がすいたみたいなので、お話を聞いてみましょう。
朝鮮の人から教わった牛骨だし

斎藤〜スープの出汁は牛骨のほかに何を使っているんですか。
店主〜そうですね、鶏がら、豚、煮干しがベースで、昆布は入れてません。あと、野菜はほとんど入れていないです、あまり好きじゃないので。米沢牛の太い骨の髄からでる出汁はあまみがあって、食べているうちになじんできます。でも、牛骨を使っているのは米沢でもうちくらいですね。豚、トリとのバランスが大事だと思います。どっかが主張しすぎてもだめだし。
斎藤〜牛骨を使おうと思ったのは、やぱり米沢牛があるからということだったんですか?
店主〜それもありますけど、最初に使いはじめたはの、先代なんです。
小哲〜ということは、この店は何年になるんですか?
店主〜60年以上になりますか。
小哲〜そうすると、戦前ということになるんですかね?
店主〜ええ、戦前からです。最初にラーメンを習ったのが、朝鮮の人なんです。
斎藤〜ああ、それで牛骨を使うんだ。
小哲〜そうか、そういうことですか。朝鮮ではスープの出汁は牛骨が基本ですからね。だけど、ラーメンなのになぜ朝鮮の人から教わったんですか?
店主〜始めに店をやっていたおばあちゃんの旦那さんが朝鮮の人だったんですね。その関係で、朝鮮の人からラーメンを教わった。で、その人に教わった時に、おばあちゃんが、みんなが豚なら、じゃあううちは牛でやろうということで始めたそうです。だから最初は苦労したと思いますよ、くさみがありますから。
小哲〜店を継いでからは、もうどのくらいになるんですか?
店主〜30年近くなりますか。
斎藤〜戦前、米沢は朝鮮人がけっこういたんですか。
店主〜鉱山があったから働きにきていたらしいです。おじいちゃんは鉱山で働いていたんですが、おじいちゃんの話だと、当時はずいぶん辛い目にあったという話です。おじいちゃんは、戦前は鉱山で働き、戦後は採石の仕事をやっていたようです。
体にも懐にも優しい郷土ラーメン
斎藤〜ところで、麺は自家製なんですか?
店主〜昔は自家製だったんですけど、今はおっつかなくなって、昔つくっていたような麺を製麺所に注文しています。
小哲〜チャーシューは昔から煮豚なんですか。
店長〜そうですね、ただ、肩ロースとバラの2種類使うようになったのはごく最近です。それまではバラは使わずに、肩ロースか内ももを使っていたんです。脂の嫌いな店は内ももを使い、ちょっと脂が欲しい店は肩ロースを使っていました。それが米沢では主流でした。
小哲〜牛の出汁を使っているから、牛肉を使おうとは思わなかったんですかね?
店主〜やったことはありますが、なかなか、うまくいきませんでしたね。
小哲〜韓国だと冷麺に牛が入っているじゃないですか。
店主〜ただ、牛を使うと高くなってしまうんですよ。うちの店は毎日食べにくる人がいますからね。
小哲〜えッ、毎日食べに来る人がいるんですか?
店主〜ええ、います。中には夜も来てくれる人もいます。

斎藤〜やっぱり、毎日食べても飽きないというのが地のラーメンのいいとこなんですけど、もう一つ、毎日食べても懐が痛まないというのも、大事なことですよね。(笑)
小哲〜そりゃ、そうだ。毎日食べても飽きないくらい体に優しく、しかも懐にも優しい。これこそラーメンの必須条件じゃないですか。・・・・・・ということで、今日は、本当にごちそうさまでした。
