第17回 日本全県ラーメン巡り その11
同じ米沢市内であっても、ちょっと郊外に行くとたんぼの広がる田園地帯になる。そんなのどかな景色の中に、昔と変わらぬ姿の「さつき食堂」があった。常連はラーメン好きの米沢市民だけでなく、毎年必ず遠く関東からやって来る客もいるという。塾頭と斎藤講師が店ののれんをくぐると、そこはほのぼのとした別世界だった。
●店データ
住所: 米沢市大字関根13562-7
TEL: 0238-35-2753
営業時間 : 11:00〜15:00(スープが売り切れ次第閉店)
定休日: 月曜日

山とたんぼと中華そば
小哲〜いやァ、なんて言ったらいいんでしょうね、こういうラーメン屋は、僕は初めてです。東京では絶対にありえない、米沢というか、田舎ならではのラーメン屋ですね。とにかく、都会にいたらこんなラーメン屋があるなんて、想像すらできない。
斎藤〜ここは奥羽本線の関根という駅から歩いて3分くらいのところなんですが、ご覧のようにまわりは田圃と山です。ちなみに、電車だと米沢の隣駅になりますが、さっき駅で時刻表を見たら電車が1日に6本しか走っていませんでした。朝7時と8時に1本ずつあって、その後はもう午後の1時までありません。
小哲〜ひやァ、どうりで駅が静かだった。町を歩いても、ぜんぜん人影がないしね。
斎藤〜たしか、この町、というか村には、食堂はこの店を入れて2軒しかなかったはずです。
小哲〜ええッ!ということは、この町でいちばんにぎやかなのが、このラーメン屋ってわけだ。いやはや、感慨深いですなあ・・・・・・・。
斎藤〜たった2軒のうちの1軒がラーメンなんですから、いかに米沢の人がラーメン好きかですよね。おっと、変なことに感心しているうちに、ラーメンができあがってきましたよ。

小哲〜じゃあ、さっそくいただきましょうか・・・・・・・。ほう、スープの色がずいぶん薄いですね。で、この味はやっぱり煮干しを使ってるんですね。でも、ここもそれほど煮干しの味が立っているわけではない、酒田みたいにはね。トリや豚のダシとうまく溶け合ってますね。スープとしては、さっぱりしていて、そして優しい味ですね。あと、この麺が細くて縮れているやつね、このところいつも言ってるけど、これ僕の好きなタイプなんです。
ネギも野菜も、みんな裏の畑で採れたもの
斎藤〜この細くて縮れているのが゙、米沢ラーメンの特徴ですね。
小哲〜この麺、けっこうもちもちしていて、あんまりカンスイも強くないし、かんでいるうちに、ちゃんと小麦のあまみが出てきて、なかなかいいなぁ。スープともよくあっている。あと、脂もほとんど浮いてなくて、かすかにチャーシューの脂が浮いているくらいですね。
斎藤〜全体としてスープはさっぱり系の、インパクトとは無縁の味ですねえ。煮干しと鶏ガラとバランスがとれていて、こってりでもないし、うまくまとまっていると思いますね。ところで、このラーメンに入ってるネギも、他の野菜も、みんな裏の畑でできたものなんですよ。さっきオバアチャンが裏の畑からとってくるのが見えました。
小哲〜えッ、そうだったんですか。そういえば、ここの厨房の窓からは裏の畑が見えるんですよね。さっき、オバアチャンが麺を茹で上がるのを待ちながら、外の畑を眺めてましたもんね。しかし、こんないい環境のラーメン屋ってめったにないですね。

斎藤〜この店は、1966年から今のオバアチャンが始めて、その時から自分で作った野菜を使ってたそうです。それと、ここはかまどに羽釜を置き、それで麺を茹でているんですよ。出汁は鶏ガラ、豚、煮干しのほかに、昆布や干ししいたけ、にんにく、などを使っているけど、あまり教えたくないって言ってました、聞いちゃったけど(笑)で、野菜は自分ちの畑で作っていて、ねぎも、キャベツもにんじんも、なんでもここで採れたもので、しかも、無農薬だそうです。
小哲〜フランス料理店の話なんだけど、10数年くらい前から、郊外の人里離れた場所に新しい店がいくつもできているんですけど、そういうところって、みんな裏に畑を持ってるとか、ハーブ園を持ってるんですよ。とにかく、それがその店のポリシーであり、ウリでもあるんですから。ところが、この店、「さつき食堂」は、昔から、ごく当たり前に自分ちの裏の畑でとれた野菜を使ってラーメンを作っていたわけで、そのへんのところがスゴイですよね。都会のシェフから見たら垂涎の的ですよ。
斎藤〜ことさらそれを強調してるわけじゃないですしね。お店の中のどこを見ても、そんなことひとつも書いてありませんもね。でも、ふと見ると、ネギが足りなくなると、おばあちゃんが畑にとりに行ってる。
小哲〜そのへんの大らかさが、なんともすばらしいですよね。しかも、作ってるのはラーメンなんだから。今回は郷土ラーメンということで、いろいろ食べて来たんだけど、その意味では、この店は、まさに土地に根付いたラーメンって感じがしますね。都会の人間から見たら、羨ましすぎるロケーションだ。
斎藤〜かまどで麺を茹でてるというところも、昔はこういうタイプのお店、結構あったと思うんです。今回は回ることができなかったんですが、青森県の黒石市というところに「長崎屋」というラーメン屋さんがあって、そこも同じようなかまどがあって、そこで麺を茹でてるんですよ。

北前船がもらたした関西の文化
小哲〜ところで、この店もスープは醤油が薄めだし、とてもバランスがいいでしょ。たとえは関東のうどんと関西のうどんを比べると、関東はすごくしょっぱいんですよ。醤油がやたらと勝ってる。反対に関西に行くと、醤油が薄くて、薄口醤油を使ってるとか、出汁がかなりしっかりしてるとかね。だから、ラーメンの場合は、これは僕の先入観だったんですけど、東北のほうが゛ずっと味が濃いかと思ってたんですよ。ところが、関東のラーメンと比べると、この店も、それから、これまで食べてきた酒田や十文字のラーメンも、東北は全般的にあまり醤油が強くなくて、関東と比べると、意外にも関西のうどんに近いような印象なんです。
斎藤たぶん、お醤油の感じが山形県ていうのはこういう傾向にあるのかもしれません。 かつては酒田が北前船の停泊地でしたから、最上川流域に交易圏が形成され、例えば、紅花とかも船で最上川を下って酒田で北前船に積み替えられていました。ほかにも、このルートを通じた様々な形の文化の交流があって、同じように料理にも北前船経由による影響が見られるんですね。
小哲〜そうか、そういうのがありましたか。そうすると、この関根という場所も最上川の流域になるんですか?
斎藤〜この町自体は最上川に面しているわけじゃないんですが、山形県の酒田からずっと最上川の交易圏に入ると考えられます。
小哲〜なるほど。ある意味で日本海側の方が北前船という流れがあったから定期的にそういう文化が入っていたわけですよね。現在の交通からみると、関西とのつながりが見えてこないんだけど、じつは、かつては北前船や河川による水上交通を通じて、関西と近い位置にあったと考えていいんですかね。
斎藤〜はい、たぶんそういう傾向はあると思います。
小哲〜そういえば、来る途中で岩木山の近くにある店で食べたくじら餅なんてのも、それと関係ありましたよね。
斎藤〜ええ、くじら餅っていうのも、北前船で京都から伝わってきたものだけれども、今は山形県と青森県にだけ残っているんですよね。
小哲〜ただし、京都にはもうないんでしょ。歴史の皮肉っていうか面白いですよね。じゃあ、この話の続きは次回ということにして、いよいよ次回でこの「日本全県ラーメンめぐり〜東北篇」のパート1も最終回にしたいと思います。
