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寿司(その2)

シドニーの寿司ブーム

小哲〜じゃあ、前回の続きで、一番困るのは寿司のうまさを外国人に教えちゃったってこと・・・・・・その続きからいきましょうか。

雁屋〜僕がオーストラリアに行ったのは1988年なんだけど、その時は、まず、現地の人はお寿司なんてものは知らなかった。海苔巻の寿司さえ知らなかったね。だいぶ前だけど、子供たちがお世話になった小学校の校長先生一家をうちに招いて、いろいろ出した料理の中に海苔巻があったわけだ。そうしたら、校長先生の子どもたちが海苔巻の黒いのを気持ち悪がって、海苔をはがして中身だけを食べた。それが、いまやシドニーの町中いたるところにテイクアウトの海苔巻屋があって、オーストラリア人は当然のように海苔巻きを全部食べている。そして、さらに海苔巻を作ってるのは中国人とか韓国人で、日本人じゃないのが圧倒的に多いんだよね。中身も我々が食べているのとはまるで違うのが入ってる。

小哲〜韓国にも海苔巻があるじゃない。シドニーで売ってるのはそういうやつ?

雁屋〜いや、日本の海苔巻だけど、中に入っている具が違うんだよ。そして、もうひとつ、回転寿司が世界中に増えちゃったね。

小哲〜たしか、1980年代の始めだったと思うけど、ニューヨークに行ったとき、五番街に元禄寿司ができたってのがニュースになってた。あれはアメリカで寿司が一般的に広まった最初かもしれない。それまでは商社の人間が行くような日本人向けの寿司屋はあったけど、ふつうのアメリカ人が自分から行けるような店ってのはまだなかった。

雁屋〜今じゃオーストラリアだってあちこちに回転寿司があるよ。

小哲〜だけど、塾長がシドニーに移住した1988年頃にはテイクアウトの寿司も、回転寿司もなかったんでしょう。

シドニーで食べられる正当派江戸前寿司

雁屋〜88年にはなかった。それがこの10年ぐらいであっという間に寿司がブームになっちゃった。で、シドニーにとってもおいしい寿司屋さんができたんだよ。彼は、本人が言うには、オーストラリア人の女性に日本で捕まって拉致されていったという、かわいそうな日本人の男でね。もともと寿司職人だったんだけど、オーストラリア人の女性と結婚しちゃったもんだからシドニーで開業した人で、大変に上手なんだよ。もし、彼がいま日本にいたら、おそらく寿司屋としてスターになれたと思う。そのくらい握った寿司の形もいいし、味もいい。京都の料理人の人がシドニーに来たときに僕がその寿司屋を紹介したら、その人は感心しちゃって、こんなお寿司があるのかって、シドニーにいる間、毎日店に行った。弟子たちも連れて行って、ここの寿司を食べて勉強しておけって言ってたよ。

小哲〜そんなにいい寿司屋がシドニーにあるなんて信じられないな。いわゆる正統な江戸前寿司で?

雁屋〜そう、全く正統な江戸前寿司なんだ。ぜんぜん崩してない。それでほんとにうまい。握った寿司の形も、真ん中がこんもりと高くなるきれいな形に握るんだ。

小哲〜横から見た形が扇紙の形をしているっていうけど、そういうんだ。

雁屋〜そう、きれいな山型ね。ネタも、シドニーの魚ってあまり脂がないんだけれども、彼はそういうのを選んで仕入れて、すごくおいしい寿司をつくる。で、彼はなんと、世界各地の料理コンテストとか料理の催事にオーストラリア代表で出ていくんだよ、寿司を持って。おかしいよね。

小哲〜たとえば、どんな国へ行くの?

雁屋〜たとえば、シンガポールとか、スペインとか、各国で開かれる食のフェスティバルに彼はオーストラリア代表で寿司を持って行くんだ。

小哲〜なんでオーストラリア代表が寿司でなの?

雁屋〜わからない。でも、オーストラリア代表で行くんだよ。

小哲〜オーストラリア料理を持ってじゃなくて。

雁屋〜何度も行ってる。ニドニーで非常に評判が高いんだけれども、その客はほとんどオーストラリア人だよね。

小哲〜しかし、オーストラリアは移民の国だから、もともとオーストラリア料理なんてのはないわけだ。イギリス系とか、ドイツ系の移民が多いんでしょ。だから、日本の料理だって日本系オーストラリア料理にといっても間違いじゃないんだ。

雁屋〜その店のお客さんは8割以上がオーストラリア人だね。オーストラリア人は寿司って最高の料理だと思ってるんだ。

外国人にも訴えかける寿司の魅力

小哲〜だけど、寿司にしておいしいネタってあるじゃない。オーストラリアで、寿司用の魚が揃うの?

雁屋〜日本みたいに脂っこいマグロはないけれどもね。

小哲〜でも、いちおうマグロはあるんでしょう、オーストラリアに。

雁屋〜あるけれども、脂っこくて一番いいのは全部日本に行っちゃうんだよ。現地で食べるマグロは、こっちでいうところのキハダマグロかな、脂はあまりないんだよね。でも、赤身がおいしい。それから、現地で捕れる白身の魚もおいしいし、ぜんぜん引けをとらない。

小哲〜じゃあ、一応、寿司のタネは揃うわけだ。

雁屋?サバなんかもおいしいし、なんでもあるね。

小哲〜それはこの10年の話だから、すごい進歩だねえ。

雁屋〜とにかく、その寿司屋さんに行くっていうのは、オーストラリア人にとって特別のことなんだね。もう、大ごちそう。

小哲〜じゃあ、値段も高い?

雁屋〜値段も高い。オーストラリア人の常識からすれば、すごく高いんだけれども、それにしても、すごくおいしいものを食べても日本円で5、6千円で済むわけだ。

小哲〜それならば、そんなに高いわけじゃない。それよりも、魚なんてほとんど食べなかったオーストラリア人までもが、寿司を食べるようになったってことは大変なことだよね。マグロの争奪戦の問題もあるけれど、やっぱり、それだけ寿司に魅力があるってことなんだろうね。

雁屋〜そうなんだよ。じゃあ、いったい何が外国人にまで訴えかけていくのか。なんだと思う?

小哲〜うーん、なんだろうな・・・・・・・・・・


つづく

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2007年03月25日 18:00に投稿されたエントリーのページです。

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イラスト/花咲アキラ(「美味しんぼ」より)
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