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寿司(その3)

雁屋〜寿司っていうものが、なぜそこまで外国人にも訴えかけていくのか。そこのところなんだけれども、要は、やはり酢飯の力だと思うんだな。あの味が外国人にもわかるんだよ。

小哲〜なるほど。酢って、レモンもそうだけど、生臭みを消したり、抑えてくれるから食べやすくなるんだよね。

雁屋〜いま外国で寿司のコンテストなんかやると、いろんな国の人間が出てきて握り寿司をつくるじゃない。見てると考えられないようなネタを乗せている。それでも下に酢飯があるとそれが寿司として通用しちゃうんだよ。カリフォルニアロールなんていうのがあったり、それから、スモークドサーモンを乗っけたりしてるのもある。あんなの考えつかないよ、我々日本人は。

小哲〜サーモンの寿司は昔ロンドンで食べたよ。市内に何軒か寿司屋があったんだけど、まぐろのトロが手に入らないのでトロの代用でピンクサーモンのトロを使って、それが、うまいんだよ。ドイツとかヨーロッパに長期駐在している商社の人間なんかわざわざロンドンまで食べに来るって言ってた。でも、最近は日本でもサーモンの寿司を出すところがあるよね。

雁屋〜サーモンならいいけどね。

小哲〜だけど、生のサーモンには虫がいるんだよね?

雁屋〜いるよ。サーモンはだいたいどの国でも北の方にいるんだけど、海の獣、海獣っているだろう、オットセイとかアザラシとか。そういうものの糞が寄生虫の卵を媒介するわけだよ。そういう海獣が棲んでいる海域を通ってきたサケの中にはその寄生虫をもらっちゃうやつがいるんだ。それが人間の体に入ってきちゃったりするんだよね。ところが、オーストラリアではサケを養殖してるんだけど、これは非常に清潔な海域なんだよ。オーストラリアのタスマニアだから、海がとってもきれいなわけだよ。普通、サケが病気になるとそこで薬を撒いたりするじゃない。それがいけない。ところが、そこはサケがちょっと病気になったなと思ったら、船で引っ張って別の海域に連れて行って、そこで治しちゃうんだよ。

小哲〜へえー、そういうことができちゃうんだ。

雁屋〜できるんだよ。そのサーモンが築地で一番高い値段がつくって言ってたよ。美味しいよ。

小哲〜そういえば、前にサケ釣りの取材でカナダへ行ったことがあるんだけど、バンクーバーの北の方のフィヨルドの入り江にバンガローを大きくしたようなロッジを係留してあって、それがいってみれば釣り宿ってわけ。お客はみんなアメリカの金持ちだから、そこまでは水上飛行機かヘリコプターでやって来て、毎日朝からモーターボートで釣りに出る。で、サケの群がいなくなると、そのロッジごとサケのいる海域に引っぱって行って、また適当なところに係留するわけ。やることがでかい。

雁屋〜だけど、あれは1日何匹とか、規則があるだろう。

小哲〜うーん、どうだったかな。ただし、サケ釣りの登録が必要だった。それに釣れててもせいぜい5、6匹だし。

雁屋〜だけど、一人でそんなに釣ったってしょうがないじゃない。

小哲〜それがね、釣った魚はロッジのオヤジに頼んでおくと燻製にしたのを缶詰にして、後から自分の国に送ってくれるの。

雁屋〜へえー、だけど刺身は食えないの?

小哲〜刺身は僕が包丁を持ってたから自分でつくって食べた。彼らはやっぱり刺身では食べないね。

雁屋〜だけど、寿司は江戸前だけに限らずに、大阪の寿司もうまいよな。昔、京都の鯖ずしを食べたら、ごはんが硬すぎてあんまり美味しくなかったんだけど、その後、大阪に行って吉野寿司に行って食べたら、こんなに美味しいもんかと思った。

小哲〜僕は京都の棒寿司も大好きだけどな。吉野寿司の押し寿司は京都と違ってバッテラがいいけど、こけら寿司がまた美味しい。だけど、京都の鯖寿司はそんなに硬いかなあ。

雁屋〜硬い硬い。飯がガチンガチンで食べてて苦しくなってくるよ。

小哲〜寿司っていうと、もともと大阪寿司のほうが古いんだけど、江戸前寿司の美家古で食べてて思ったのは、あそこはみんなタネに火を通してるじゃない。で、エビだったら、茹でたエビとシャリの間におぼろを入れるでしょ。若い頃は甘ったるくて好きじゃなかったんだけど、年をとるに連れて、ああいう美味しさがよくなってきた。で、あるとき思ったんんだけど、江戸前寿司って、いま全盛の生のタネばかり使う東京寿司と比べると、むしろ大阪寿司に近いんだね。

雁屋〜なるほどね。

小哲〜最近の東京の寿司は刺身の新鮮さがウリになってるけど、美家古みたいな江戸前寿司は、タネを煮たり、茹でたりして、料理として手を加えているでしょ。だから、江戸前寿司ってのは、最近の東京の寿司よりも、ずっと大阪寿司に近くて、そこに独特の美味しさがあると思う。

雁屋〜煮ハマとか美味しいよな。まぐろのズケもうまいしな。

小哲〜そうそう.最近は江戸前じゃない店でも、ズケを出すところが増えたよね。でも。エビはどこでもたいてい生だね。僕は、あの茹でたエビにおぼろをはさんだやつが、なんとも優しい甘味で好きなんだな。大人になってわかった味。

雁屋〜あれは美味しいねえ。あそこのお寿司は独特だな。僕は美家古の寿司は昔から好きだなあ。

小哲〜大阪寿司だったら、やっぱり吉野寿司ですか。

雁屋〜うん、あそこは美味しいね。ところが、今じゃ大阪で大阪寿司をやってるところはもう数軒しかないらしい。数が少なくなっちゃって、圧倒的にいわゆる江戸前の握り寿司屋になっちゃったって。酢飯の上に魚とかを載っけて食べるのは非常に訴求力があるじゃない。

小哲〜あ、それともう一つ、握り寿司が全国に広まった理由があるらしいんだ。前に、大阪の寿司屋さんから聞いたんだけど、終戦直後の食糧統制の時代には、外で食事をするときは配給された外食券を使い、指定された食堂でしか食べられなかったんだって。寿司屋の場合は外食券1枚につき握り寿司5個と海苔巻き5切れが一人前と決められていた。で、その場合の寿司というのは握り寿司とされ、それ以外の寿司は禁止された。そのせいで、日本中のすし屋が握りずしを作るようになり、統制が終わった後も、寿司といえば握りずしをさすようになったっていうんだよ。 

雁屋〜へえ,ほんとかね。僕の子どもの頃は寿司なんて贅沢品もいいとこで、大変なごちそうだったよな。食糧統制の時代に外食券で寿司が食べられたわけか。だけど、結局は、握りのほうが寿司ダネの種類も豊富だし、味も明快だし、訴求力という点で大阪寿司に勝ったってことなんだろうな。

小哲〜だけど、その後の展開は、早寿司といわれた江戸前寿司が、さらに手をかけない、刺身を切ってのせるだけの超早寿司に負けたってわけだよね。大阪寿司が握り寿司に負けたみたいに。


つづく...

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2007年04月02日 06:07に投稿されたエントリーのページです。

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イラスト/花咲アキラ(「美味しんぼ」より)
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