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寿司(その4)

寿司ダネは豊富になったけど、フグだけは無理

小哲〜前回の続きだけど、大阪寿司が江戸前寿司に席巻され、さらに江戸前寿司も刺身をのせただけの今風の「東京寿司」に負けちゃったわけなんだけど、ということは、結局は新鮮なネタの力が大きかったってことですよね。要するに物流と冷蔵技術が進歩したおかげで、昔と違って新鮮な魚がどこでも手に入るようになり、寿司ダネも一気に種類が増えた。

雁屋〜やっぱり新鮮ないいネタを使えば誰が食べてもうまいからね。ただ、握り寿司としてのうまさは、ネタだけでなく職人の腕のよしあしにかかっている。

小哲〜江戸前だと、白身にしても限られた伝統的なものしか使わないけれど、店によってはいろんな種類の白身魚を置いてるところがあって、僕なんかうれしいね。

雁屋〜ただ、あれこれネタはあるけど、握り寿司で食べておいしいのはマグロとコハダだね。僕はマグロとコハダを順番でそれだけ繰り返して食べてもいいね。途中の他のものは、実はいらない。

小哲〜僕は白身は食べたいな、ヒラメとかタイとか、それから、カサゴとかスズキなんかもうまいしね。若い頃は白身なんか全然食べなかったんだけどね。

雁屋〜ヒラメとかタイは向こうがつくってくれるから食べるけど、自分でじゃあ何を食べようって考えたときには、ヒラメとかタイって気持ちはないな。ただ、おもしろいのは、フグだけは寿司にならないね。

小哲〜ああ、そうかもしれない。

雁屋〜身が硬すぎるんだ。

小哲〜ヒラメあたりならまだいいけどね。

雁屋〜ヒラメなら大丈夫だけど、フグは薄造りにしてあっても硬いじゃない。ポン酢でくちゃくちゃやるけど、寿司にはならない。

小哲〜かんでいるうちに、口の中にフグだけ残っちゃうんじゃない?硬くて。

雁屋〜残っちゃうだろうな。

小哲〜ごはんの方が先になくなっちゃうでしょ。

雁屋〜いや、ふぐの寿司は前にどこかで食べたことあるかな。

小哲〜刺身だったら、それだけで食べるからいいけど、握りだと、シャリと噛む時間が違うから、先にシャリがなくなってフグだけ口の中に残っちゃうよ。かといって、薄造りのやつをシャリに乗せても、薄すぎて量的なバランスがとれないでしょ。そう考えると寿司はやっぱりタイとかマグロかな。

マグロがなかったら寿司屋は成り立たない

雁屋〜そう、マグロですよ。それもヅケだよ。赤身のヅケ、あれがおいしいなあ。あれはちょっと泣けてくるね。

小哲〜そうだね、マグロのない寿司は寂しいな。

雁屋〜マグロがなかったら寿司屋さんは成り立たないね。ある時、文芸評論家でこういうことを言った人がいた。三島由紀夫ってすごく変わった人で、寿司屋に行くとマグロばっかり10個でも20個でも食べるんだって。で、三島由紀夫はほんとに思慮が足りない。そんなことをしたらマグロがなくなっちゃうじゃないか。寿司屋はマグロがないとやっていけなくなるから、そういうことをしちゃだめじゃないかって。僕なんか若い頃、築地の安い寿司屋に行って「トロを10個」って頼んで、それを端からパカパカ食っていったことがあったから、思慮が足りないどころじゃないよな。

小哲〜マグロでよく言われるのに、赤身がいいか、トロがいいかっていうのがあるじゃない。

雁屋〜両方いいじゃない。

小哲〜どっちもいいけど、もしも1つだけマグロの寿司を食べていいよって言われたらどっちをとる?

雁屋〜一つだけはイヤ。全部がいい。一つだけは無理だよ。

小哲〜いやいや、いちおう話として。たとえば、大トロ、中トロ、赤身で。僕だったら、中トロかな。赤身だけだと、トロも食べておきたいし、トロだけだと、赤みも食べたくなる、で、中間をとって中トロ。赤みのよさもトロのよさもわかる。

雁屋〜うーん、赤身だけだとね。しかし、それはちょっと難しいね。

小哲〜でも、赤身にマグロそのものの味さが現れるでしょ。素性というか。中トロも、大トロも、それぞれ別物だしね。

雁屋〜別物ですね。マグロについてはこの間「美味しんぼ」でも書いたんだけど、部位が違うだけで別の味になっちゃうからね。それも「寿司金」なんかでよくやってくれるんだけど、同じ中トロでも、3センチか4センチ場所が違っただけで味が全然違っちゃうんだな、あんな大きい魚だからさ。牛肉は部位が変わってもそんなめちゃくちゃ味は変わらないんだけど、なぜマグロはあんなに味が変わるかな。
 これもおもしろいんだけど、一般消費者を相手に試験をするわけだ。ミナミマグロ、冷凍で持ってくるマグロがあるでしょう。あれを解凍してお寿司にしたのがすごく人気があるんだよ。おいしいんだって。

小哲〜そうらしいね。

雁屋〜魚市場の人間も冷凍で持ってきたマグロの寿司が一番おいしいなんて言ってるんだよ。でも、近海の本マグロで獲りたてのは香りが違うと思うけどな。

小哲〜赤身で比べると、本マグロの赤身とミナミマグロとでは全然違うのがわかるよ。トロだと、ミナミマグロのトロっていうのは、本マグロの次に高級とされるんじゃなかったかな。

雁屋〜やっぱりミナミマグロには一種強いクセがある。それが好きな人は好きなのかもしれない。いがらっぽいっていったら言い過ぎだけど、極めてクセがあるよね。

小哲〜前に何かで読んだけど、そういう意味では、トロで本マグロの次に喜ばれてるのがミナミマグロ。だけど、ビンナガなんかになると、まったく別ものだからね。

雁屋から しかし、寿司は寿司ダネもそうだけど、職人の握りかたによってもぜんぜん違ってくるだろう。

小哲〜そうそう、「美味しんぼ」でも、シャリをガチガチに握ってしまう職人の話がありましたよね。それじゃあ、寿司の握りかたについて、この続きは次回にお願いします。

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2007年05月01日 11:29に投稿されたエントリーのページです。

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イラスト/花咲アキラ(「美味しんぼ」より)
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