寿司(その1)
酢飯の発明が偉大だった
小哲〜寿司には、鮒寿司みたいなものもあれば、押し寿司や、ちらし寿司なんてのもあって、実際にはいろんな種類があるんだけど、一般的に寿司というと、今では誰もが握り寿司を思い浮かべます。それと、海外でも寿司が大人気なんだけど、寿司というと、やっぱりみんな握り寿司だと思ってる。
雁屋〜そうなんだ。だけど、実は寿司というのは非常に古い歴史があって、元々はなれ寿司といって、ごはんと一緒に発酵させて、半年とか、琵琶湖の鮒寿司などは3年近く時間がかかる。それだけ時間をかけて発酵させるから美味しいんだけれども、場合によってはものすごく臭いよね。鮒寿司なんかは、あの臭いのがたまらなく美味しいんだけど、中には匂いが強すぎて食べられないという人もいる。大体、発酵食品ていうのは、熱狂的に好きな人がいれば、反対に、絶対にだめだって人もいる。納豆だって食べられないない人もいるし、チーズだって、発酵させて臭いが強くなったのが僕は大好きだけど、それが嫌だという人がいて、発酵食品はとにかく好き嫌いがあるんだよね。ところが、江戸前の寿司は、なれ寿司ではなく、早寿司という分類に入る。なぜ早寿司かというと、なれ寿司は半年以上待たなきゃできないんだけど、江戸前の握りはその場で酢飯をつくって握れば寿司になっちゃうので早いから早寿司っていう。で、考えてみると、この酢飯の発明こそが偉大だった。
小哲〜そうだよね、発酵させる代わりに酢を入れちゃうんだから、言ってみれば、手抜きのインスタント寿司でしょ。だけど、その後の寿司の歴史を考えると、これがあったから、今みたいな寿司の隆盛があるわけだ。してみると、酢飯の発明は寿司の革命といってもいいよね。
雁屋〜そう、大革命だよ。酢飯を発明した人は誰だか知らんけど、江戸時代中期だろう。これは大変な発明品であり、革命だと思うんだよね。酢飯の上に何か乗っけるだけでなんでもお寿司になっちゃうんだもの。だから、いろんな形のお寿司があるけれども、野菜を載せてもお寿司になってしまうし、肉を載せてもお寿司になる。ここで一気に料理としての幅が広がった。酢飯の発明っていうのはすごいね。
小哲〜たしかに、偉大だね。酢飯に乗せればなんでも美味しくなっちゃうというんだから。
雁屋〜昔よく食べた五目寿司っていうのは、刻んで煮たニンジン、ゴボウ、レンコン、油揚げ、シイタケ、そういうものを酢飯に混ぜて、上にサクラデンブと金糸たまごをのせたもの。あれはおいしかったね。誕生日にいつも母親がつくってくれて。
小哲〜そうそう、五目寿司というのは、誕生日とかお祝いの時に作ったもんなんだよね。
雁屋〜誕生日は必ず五目寿司だった。それだって酢飯があればこそだ。
小哲〜そう考えると、酢飯ってのは一種のコロンブスの卵だけど、最初に思いついた人間は偉大だよね。
雁屋〜天才だな。
握り寿司は、寿司の長い歴史の中では最近の食べ物
小哲〜だけど、歴史的に見ると、握り寿司が発明されたのは江戸時代でも終わり頃なんでしょ。
雁屋〜最初は深川に松が寿司というのが現れ、その後で与兵衛寿司が両国にできたのが文政から天保の時代だっていうから、もう19世紀に入った江戸の末期だよね。その前は、歌舞伎にも寿司屋の弥助というのがが出てきて、寿司のことを符丁で弥助って呼んだりしていたんだけど、その頃はまだ鮎寿司だから、握りじゃなくてなれ寿司だったんだな。
小哲〜とすると、握り寿司というのは、千数百年にわたる寿司の歴史の中では、ごく最近の食べ物なんだね。
雁屋〜それから、最初は今みたいに高級じゃなかった。江戸草紙なんかを見ると、屋台で浪人者とか尻っぱしょりをした職人が食べている図がある。よく、美家古寿司の先代の親方が言ってたけども、昔は寿司なんていうのは、3個か4個食うもので、それで一食にするもんじゃなかったって。お茶を飲んで3、4個食べる。ちょっとした腹つなぎに食べるもので、それがディナーだったり、ランチだったりということはなかったんだって。
小哲〜しかし、そうだとすると僕は今のほうがいいな。寿司は酒を飲みながらゆっくりと食べたほうが楽しいじゃない。立ち食いで4個ぐらいをつまむだけじゃ、せっかくの寿司なのに物足りないよ。
雁屋〜ただ、その頃はネタが限られていたからね。マグロとコハダぐらいのものだろう。そうしたら何個も食えない。
小哲〜あとは煮はまぐりとか、あなごみたいに火を通したものね。なにしろ、昔は冷蔵庫がなかったから、生じゃなくて、煮るとか、酢でしめたってことだよね。
雁屋〜そう、昔は生のネタが限られていたけど、いまはネタがいろいろ使えるようになったから一食の料理として食べられるようになった。そもそもは、なれ寿司だって保存のためのものだったんだから。
小哲〜でも、その結果、最近の寿司は、料理として酢飯とのバランスを考えながらネタに手を加えることをせずに、単に酢飯の上に刺身を乗っけるだけの、早寿司よりもさらにインスタントな刺身寿司になっちゃった。
雁屋〜新鮮なネタだったら、握るだけでも美味しいからね。そこが違う。しかしね、一番困るのは、寿司のうまさを外国人に教えちゃったってことだよね。
小哲〜アハハハハ、そういえば、そうだ。
雁屋〜とにかく、そのせいで世界中にマグロの争奪戦が起こっちゃってるわけじゃない。マグロが絶滅種に指定されて、そのうち日本人も食べられなくなるんじゃないかっていうぐらいの騒ぎだからな。
小哲〜そう、それが困るんだよね。じゃぁ,そのへんの話は、次回に続けることにしましょう。
つづく...
