ゲテモノ食いという快楽(その1)
「世界残酷物語」に出てきた禁断の料理
雁屋〜いよいよ最終章ですから、「いま一番食べてみたいもの」を話してみませんか。
岸〜食べたことがないから食べてみたいもの?
雁屋〜食べたことがないからでもいいし、既に食べたけど、あれはもう一度食べたいというものでも。
岸〜何、あなたは?
雁屋〜サルの脳味噌。
岸〜やだぁ。食べたことあるの?
雁屋〜ないない。ジャコペッティの「世界残酷物語」という映画の中で、サルの脳味噌を食うという場面がある。そこで、食通といわれてるいろんな人に聞いてみたんです。中国の人にも香港の人にも聞いてみたが、あれは嘘に決まってるって。たしかに、どこの文献にもどの本にも誰の話にも、出てこない。ただね、羊の脳味噌はよく食べるでしょう。
岸〜あれはおいしいですよ。タラの白子みたいな味で。スープにしたりもしますよ。
雁屋〜羊や子牛の脳味噌を食うんだから、中国人だったら絶対にサルの脳味噌を食ってると思いますよ。
岸〜そうよね、四つ足で食べないのはテーブルだけって言ってるんですからね。
雁屋〜二本足のものも、母親以外は食べる。
岸〜中国の 諺 にあるわね。
雁屋〜父親は食うんだ?二本足で食べないのは母親だけだって。でも、例のクロイツヘルツ・ヤコブ病以来、脳味噌の料理は一切だめになっちゃったね。調べてみると、羊の脳味噌を食べているアラブ諸国はヤコブ病の発症率が高いんですって。僕はサルの脚や腕は食べたことがあるんです。とてもしんなりして、身が詰まってておいしかったんですよ。だから、なんとか脳味噌を食えないかなと思ってね。
岸〜でも、脳味噌をすくって食べるというのは、ちょっとねえ。
雁屋〜ジャコペッティの映画では、大きなテーブルにみんなが集まってるところに、手足を縛りつけたサルを箱に入れて運んできて、サルは顔だけ出てるんですよ。サルはわからないから、キョロキョロしてるところをうまい具合に頭蓋骨を外して、生きてるうちにサルの脳味噌にスプーンを突き立てて食べるわけです。
岸〜おおいやだ。薬を飲ませるのかしら。
雁屋〜薬を飲ませたらだめ。血の中に薬が入っちゃうから。麻酔の注射とかも打てない。僕は昔『二七〇〇年の美味』(角川書店)という本を書いたんです。そのときには、声が出ないように麻酔の鍼を打って、すくって食べるという設定にしましたけどね。
岸〜どんな内容の小説?
雁屋〜主人公は美食を追求した果てに、美食の王みたいな人に「じゃあ、最高においしいものを食べさせてやる」と連れていかれる。いろんなものをごちそうしてくれるんだけど、最後どうも様子が変だ。気がついたら、鍼を打たれて身動きできなくなった状態で、テーブルの真ん中に首だけ出して座らされてる。中国人が頭の皮をすっと剥いで、頭蓋骨をポコッと外して、「まず本人が食べなさい」って、自分の脳味噌を口に入れてくれるという小説を書いたんです。
つづく...
