ゲテモノ食いという快楽(その2)
ベトナム屋台の「ホビロン」とは
雁屋〜それでは、岸さんのいま一番食べてみたいものを。
岸〜食べたいものではなくて、食べられないもの、食べたくないものっていうのは、フィリピンのひよこが孵ったばかりの……。
雁屋〜フィリピンじゃない、ベトナム。孵化の途中のアヒルの卵を茹でたものでしょう。
岸〜フィリピンにもあるって。あれだけは食べたくない。召し上がった?
雁屋〜ベトナムで、「ホビロン」というの。
岸〜どんな味?
雁屋〜おいしいですよ。コクがあって、もちろん嘴とか羽根になってるのは舌触りがちょっとざわざわしますけど、味自体は大変いいものですね。僕は栗はあまり好きじゃないけど、栗みたいな濃厚ないい味で、あれはくせになりますよ。なにしろ、たまごと雛のいい部分がまざってるんですから。
岸〜生で食べるわけ?
雁屋〜茹でるんです。茹でてそのままおさじですくって食べる。これはベトナムの人たちのおやつだもん。屋台でたくさん出てる。おいしいですよ。
岸〜じゃあ、食べてみたいと言いなおしましょう(笑)。
雁屋〜そんなことを言えば、豚の胎児を刻んだやつとかあるじゃない。
岸〜私は、昭和五十二年ぐらいだからもう三十年近くなるんだけど、昭文社で食べ歩きの本をつくったんですよ。山本嘉次郎の本が前に出ていて、それが古くなったので新しくつくりかえてくれと言われたんです。文庫本より小さいぐらいのサイズで一冊五百円で八冊。毎日新聞の部長さんで佐々木芳人さんという『赤エンピツ片手の食べ歩き』という本などを出してる方と、その方が見つけてきた近衛文磨さんの次男の近衛通隆さんと、私の三人で組んでね。
佐々木さんは作家の開高健と仲がよかったのね。開高健が大阪で食べた豚の胎児を刻んだのがおいしかったというので、佐々木さんが行ったら、一見さんはだめって食べさせてもらえなかった。それがよっぽど悔しかったらしく、三河島の店で食べさせてくれるというので出かけたんです。普通の焼き肉屋みたいなところでしたけど、岸さんも料理記者だから食べてみなさいって言われて、食べましたよ。
ラーメン丼の中に酢味のスープが入っていて、その中に豚の胎児が入っている。食べると、皮の部分がシャリシャリしてて、子袋はトロントロンとしてね。食べながら佐々木さんは「何が開高健か、何が開高健か」って。私も商売だからふた口ぐらい食べてみましたけど。
雁屋〜別にうまくないですね。
岸〜そう、あれは結局、胎児が入った子宮を刻んだものよ。
雁屋〜僕も大阪で食いましたけど、そんなうまいもんじゃなかった。一回で結構、何度も食べたいとは思わなかった。
つづく...
